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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(あ)654号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人平塚子之一の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、いわゆるPTP包装の施された本件糖衣錠剤は、その外観、形状等に照らすと、いまだ薬事法二条一項二号に該当するとは断定し難いが、血圧降下剤「リポクレイン錠」であるとの表示等をまつまでもなく、同条一項二号または三号の医薬品にあたると認めるには十分であるから、この点に関する原判示は判決の結論に影響を及ぼさない。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(木下忠良 大塚喜一郎 栗本一夫 塚本重頼 鹽野宜慶)

弁護人平塚子之一の上告趣意

〈前略〉

第四、法令の解釈適用の誤りがありとする主張

被告人がPTP包装の白色錠剤を作成した行為は薬事法第二条第一項各号の何れにも該当しないと思料します。

被告人が製造に加わつたPTP包装の白色錠剤が薬事法第二条一項一号に該当しないことは白色錠剤中に日本薬局方に定められた物が入つていないので明瞭です。また薬事法第二条一項二号又は第三号にも該当しません。

薬事法上ある物が第二条第一項第二号又は第三号に掲げる目的を有する医薬品であるかどうかは、行政運営上は「その物の成分、本質、形状(剤型、容器、包装、意匠等)その物に表示された使用目的(傍点弁護人)効能効果、用法用量、販売方法、販売の際の演述等の要素を総合的に判断して、通常人が同項二号又は第三号に掲げる目的を有するものであるという認識を得るかどうかによつて判断すべきである」とされています(厚生省薬務局長通知昭和四六年六月一日薬発第四七六号)

本件第一審公判において証人中塚宗次、同青木堯はPTP包装の錠剤はその形状のみから判断して医薬品であると証言しているところでありますが、前記薬務局長通知を基本として判断するとPTP包装のみを以つてしては未だ以つて、通常人が薬事法第二号第三号に掲げる目的を有するものであると判断するに足りないと思料されます。厚生省薬務局薬事課長昭和三〇年一〇月一二日薬事二九六号によれば、「薬理作用上は医薬品としての効能効果を期待し得ないものであつても、アンプルに入れ覚せい剤と称して(傍点弁護人)販売すれば医薬品に該当することとなる」ともされています。この論理を展開すれば薬理作用上効能効果が期待し得ないものをアンプルに入れ覚せい剤として販売せんことを計画し、アンプルに入れただけでは薬事法二条一項三号の医薬品ということは出来ないが覚せい剤と称して(演述)販売すれば、初めて通常人が医薬品と認識し得るものと解せられるのである。

されば薬理上は医薬品として効能、効果が期待し得ない、前述の原料を固型剤として錠剤としPTP包装をしたとしてもその形状のみを以つてしては未だ薬事法二条一項二号の人又は動物の疾病の診断治療又は予防に使用されることが目的とされている物であるか同三号の人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされているものか、或いは健康食品として使用することを目的とするものであるか客観的にも又通常人で判断することができないと思料します。だからこれを偽造した血圧降下剤リポクレイン錠と称し効能書を付し化粧函に入れ販売するに当り血圧降下剤のリポクレイン錠であると演述することにより、はじめて血圧降下剤リポクレイン錠と通常人に認められその段階で薬事法二条一項二号の人の疾病の治療に使用されることを目的とする医薬品と認定されるものであると思料されます。以上のことは本件錠剤がアスナロにおいて製造中であつた昭和五一年九月一六日頃より同年一〇月二八日頃迄の間に約三回大阪府の薬事監視員がアスナロの医薬品製造の指導監視に当つていながら何等検挙取調べを行つていないことによつてもはつきりしています。本件錠剤がPTP包装の段階から薬事法違反であるというなら、何らかの適切な措置、調査措置が取られなければならないのに、何にも行われていないのです。その段階では未だ違法であるかどうか不明であるから措置が採られなかつたと信ずるものであります。〈以下、省略〉

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